手さぐり鍼灸記6「花粉症と冷蔵庫」
毎年プロ野球のオープン戦が始まる頃になると、それを合図にしたように、鼻がグズグズ、眼がムズムズ、花粉症の季節がやってくる。私もいつのころからか花粉症に悩まされるようになった。ということで、ここでは、薬に頼らないで花粉症の季節を乗り切るにはどうすればいいかという話を幾つかしたい。
まずは鼻うがい。コップにぬるま湯で0.1%の食塩水を作る。0.1%の目安は水200CC に対して塩がティースプーンに半分ぐらいだろうか。こうして作った塩水を鼻から一気に飲み込んで喉をとおして吐き出す。鼻の中に残った水はチ-ンと鼻をかむ要領で出してしまう。これで吸い込んだ花粉や鼻の中の汚れが洗い流される。
なんだか苦しそうに思うかもしれないが、やってみるとちっとも苦しくないし、スッキリして気持がいい。朝起きた時、家に帰った時、毎日これをやること。最近では、「ハナクリン」という鼻洗い専用の道具も出ているから、興味のある方は調べて見られるといい。もちろんこれは風邪の予防にも役立つ。
花粉症予防にはやはり花粉を吸い込まないよう気をつけることが第一、その意味でもマスクは欠かせないが、マスクにティートリーのアロマオイルを1・2滴たらせば鼻の通りがよくなる。アロマテラピーということだ。
鍼は花粉症にも効くの?と言う人もいらっしゃるが、もちろん鍼はよく効きます。
当院では、より多くの人たちに鍼の魅力を知っていただくきっかけになればと、短時間でできる「花粉症クイック治療」を15分2000円でやっている。
鼻の周り、目の周りの経穴を選んで鍼をして、低周波の電流を流す。患部の気血の流れが促されて、症状が押さえられ、鼻の通りがスッキリする。
しかし、通常の治療の場合はそれに加えて必ず大腸の治療をしている。
花粉症は大腸の病気だというと、みなさん「えーっ?」といわれる。なぜ大腸なのか不思議に思うかもしれないが、東洋医学理論では鼻は肺・大腸の経絡と関連する。鼻の症状が大腸にも関係すると考えるのは、ごくあたり前のことでさほど唐突ということではない。
まして、腸にはヒトの免疫細胞の60~70%が存在するという。大腸は人間の免疫センターとも言われる。アレルギーは自己免疫疾患だから、大腸との関わりは深いと考えるのは現代医学的にも無理のない話だと思う。カナダに住んでいる私の妹も毎年ひどい花粉症に悩まされていたが、医者にミルクを止めるように言われて、それ以降症状がかるくなったという、欧米でも花粉症と腸との関係は常識になっているのかもしれない。
ということで、私は花粉症の完治には大腸の治療が欠かせないと思っている。
大腸と花粉症の関わりで、興味深いはなしがある。
「お年寄りには花粉症がほとんどいない」という。嘘だと思うなら、あなたの周りを見回してみてください。花粉症のお年よりは見つからないはず。これは冷蔵庫の普及と因果関係があるのだそうだ。
私は昭和23年生まれだが、我が家に冷蔵庫がやって来たのは小学生の高学年の時だった。 (その頃は「電気冷蔵庫」と呼ばれていた) 冷蔵庫で冷やした水がこんなにも冷たく美味しいのかと驚いたのを覚えている。冷やしたジュースやミルクもたくさん飲んだ。
ところが、昭和20年以前に生まれた人たちの子供時代には冷蔵庫がなかった。冷たい飲み物で腸を冷やすこともなかった。大腸が丈夫に育った。という訳で70歳以上の人には花粉症がほとんど見当たらない。お腹を冷やさないことの大切さをあらためて認識させられる話ではある。
ここで、エピソードをもうひとつ。
東洋医学は冷えを嫌う。お腹を冷やすことを嫌う。冷たい飲み物を避けるようにと教える。
ところが、頭では理解していてもそれを実践するのはなかなか難しいのが人間。
ある鍼灸師の勉強会、研究発表の後で懇親会があった。さっきまで冷えは悪いとさんざん話し合っていたメンバーに、何の疑問も持たないで幹事さんが尋ねる。「とりあえず生ビールの方?」私を含めほとんどの鍼灸師たちがまた何の疑問ももたないまま「はーい」と手を上げた。「弱きもの汝の名は・・・」ではある。