手さぐり鍼灸記3「歩け・歩け・歩け」
腰痛も膝痛も、そして、肩こりも、普段から歩く習慣が身につけば治ってしまう。
いや、歩くことでもっと多くの病気を、予防し、治すことが出来るのかもしれない。
こんな話がある。
私が、毎週木曜日、師匠である片桐先生の治療院に通っていた頃のことである。
先生はどんな患者さんにも、歩くように、それも足に力を入れて歩くようにと言われる。当時、関西の方から悪性リンパ腫末期の患者さんが上京され通ってこられていた。
奥様に付き添われて、歩くのがやっとの状態。最後の望みを鍼灸に託したということだ。
治療の後その患者さんに向かって、上野公園あたりを2時間ほど歩いてくるようにと先生が言われた。正直そんなことをさせて大丈夫なのだろうかと思った。
約2時間後、その患者さんが、お腹が痛いと苦しそうに帰って来られた。それは身体が目覚め始めたことだと先生。平然として治療の続きをされた。
驚いたのは翌週、その患者さんに会った時である。すっかり顔色がよくなっている。
先週の末期がん患者特有の死相がなくなっている。しばらくして、元気に関西へ帰っていかれたという。もちろん先生だから出来たことだと思う。
ということで、私が歩くことを患者さんにすすめるのは、片桐先生の受け売りである。
年を取るということは、歩くのが遅くなるということだそうだ。
私は今年で65歳になるが、70歳になった時に50代に見えるような歩き方をすることをひとつの目標としている。さっそうと若々しく歩く。それにはまず若々しい姿勢で立つことが大切だ。
身長を測るときをイメージすれば分かりやすい。
まず、膝をしっかり伸ばす。膝の裏には委中という有名な腰のツボがあるが、膝が曲がっていると腰も曲がってしまう。腰は少し前に押し出すように伸ばして、意識的にお腹を引っ込める。この姿勢を心がけるだけで腰痛の予防にもなる。
頭のてっぺんと両耳を結んだところに百会というツボがある。この百会を一番高い位置に来るようにイメージする。したがって顎は引きすぎず、出しすぎずとなる。
年を取ると肩や顎が前に出て背中が丸くなってくる。パソコン作業が多い人もそうだ。これが肩こりの原因になる。肩をすくめて耳に近づけ、ぐるりと後ろに廻し、ストンと落とす。これで、正しい姿勢の完成である。
さて、次は歩き方。左足から歩いてみるとする。
左腰を前に出しながら、左の踵を右足の親指の延長線上に着地させる。次に重心を踵から左足外側に沿って前に移動させ、前足底(指の付け根辺り)で地面を後ろに力強く蹴る。
これを、交互に行なう。文字にするとややこしいが、要は地面を力強く蹴ることがポイントだ。それによって歩幅も広くなり、自分で意識しなくてもいつもより早く歩けるはずだ。これを意識すれば、筋力の強化にもなるし代謝も上がりダイエット効果も期待できる。
早く歩くことをことさら意識する必要はない。自分のペースで歩けばいい。
私の場合、ジャズの「サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」を頭の中で鳴らしながら歩く。
天気のいい日に胸を張って大きなストライドで歩いていると、歌の文句じゃないけれど、ロックフェラーにでもなったようなリッチな気分になってくる。