手さぐり鍼灸記2「鍼灸でガンが予防はできるか2」
NK (ナチュラル・キラー)細胞は、ガン細胞を攻撃する殺し屋細胞として有名であるが、
「ストレスがある」という人は、そうでない人に比べて、NK細胞の活性が半分近くになっている、という研究報告は多い。
(医学博士・石原結實著 「気と血の流れをよくすれば病気は治る」より)。
ストレスがガンの原因のひとつであるとする学者は数多くいる。鍼灸治療は自律神経のバランスを整えてストレス症状を軽減する。であるとすれば、ガンの予防に鍼灸治療は大いに効果があるということが言える。このことに関して思い出される人がいる。
かれこれ30年以上前の話になる。銀座の裏通り、路地に面した古いビルに「G内科」という診療所があった。内科とは名ばかりで、ドアを開けるとうなぎの寝床のようなスペースに4・5台のベッドが並ぶ。当時は珍しかったカイロプラティクスの治療院であった。
奥には言い訳ばかりの内科診療スペースがあって、入り口には「日本ストレス学会」というプレートが貼ってあったのを憶えている。
この診療所の主はF先生といい、動物王国の「ムツゴロウ先生」を連想させる飄々とした風貌の人で、いつもタバコを吸いながら患者と世間話をしておられた。
噂によれば、医者でありながらカイロの名人。日本にカイロプラティクスを持ち込んだ人だという。日本ストレス学会の会長でもあり、病気の原因はストレスにあるという学説を唱え、日本の医学会では変人扱いされているという。だが、一歩海外に出れば、高い評価を受けている有名な学者だともいう・・・
あれから30年、今やストレスが多くの病気の原因であるという考えは、医者だけでなく一般にもあたりまえのこととして受け止められるようになった。
変人だと思われていたあのF先生こそ、まさに真実の探求者であった。
きっと、カイロプラティクスで予防医学の実践をされていたのだろうと想像している。
東洋医学では、ストレスは肝との関わりが深いと考える。鬱屈した感情が肝を傷つけて、伸びやかな気の流れを妨げる。そのことで様々な病状が引き起こされる。
頭痛、めまいや耳鳴り、不眠症などに始まり、高血圧、胃痛や腸の異常、はては男性のEDや女性生理の異常にいたるまで、ストレスが原因ではないかと疑われる症状は数限りなくある。また、治療院に来る多くの患者さんが、様々なストレスを抱えているのも嫌というほど実感する。
「疏肝理気」という治療法がある。ストレスで滞っている肝の気を、伸び伸びと身体中に巡らせるというものだ。私は、基本治療として、ほとんどの患者さんにこの治療をおこなっている。緊張が続いている反動だろうか、半数ぐらいの患者さんが、途中でウトウトと眠り始める。中にはグウグウと大いびきをかき始める人もいる。治療が終わり「身体がぽかぽかして気持ちがいい」と子供に戻ったような表情になる人もいる。そんな時は、こちらもなんだかうれしくなってしまう。
鍼の効用、その大切なひとつはストレスの解消にあると思っている。