手さぐり鍼灸記1「鍼灸でガンが予防はできるか1」
いささか刺激的なタイトルになったが、結論はイエスだ。
鍼灸でガンを治すことは難しい。しかし、ガンを予防することはできる。
私はそう考えている。
米国医師鍼灸学会の会長をしておられる中澤弘先生をお招きして、淺川ゼミ主催の定例講習会が東京医療福祉専門学校で開催された。比較的内輪の集まりであることもあってか、ざっくばらんにとても興味のあるお話をされた。
「米国の自分の診療所に毎月定期的に通ってくる65歳以上の患者さんが20名以上いる。思ってみれば、その中で癌になった人はひとりもいない。そればかりでなく、入院するほどの病気になった人もひとりもいない。時々風邪をひくくらいだ。このことだけで安直に結論は出せないが、鍼灸の予防医学における役割には、今後大いなる可能性があると思う」かいつまんでいえばこういった主旨の話だった。
少し専門的になるが、中澤先生の鍼はUCLAの「ヘルムス理論」をベースに独自の治療法を組み立てたもので、東洋医学の経絡における気血(エネルギー)の流れを重視する。
エネルギーの流れがスムーズであり、そのバランスが取れていれば、人は病気にならないという考え方である。
東洋医学にはむかしから「未病治」というコトバがある。
最近は漢方薬のコマーシャルなどでも使われているから、聞き覚えのある人もいるかもしれない。「未病」とは、病気ではないけれどそのままにしておけばやがて病気になってしまう、病気の一歩手前の状態をさす。そして鍼灸治療の真骨頂は、この「未病」のうちに身体を健康な状態に引き戻すことにあるといわれる。
日本では、鍼灸というと肩こり・腰痛といった整形外科疾患が真っ先にでてくる。
これが間違いとは言わないが、WHOの鍼灸の適応疾患にもあるように、世界ではその守備範囲はもっと広く捉えられている。日本人にはショックかもしれないが、鍼灸においてももはや欧米の方が日本より進んでいるように思う。柔道や空手と同じだ。
予防医学としての鍼にも注目が集まりつつある。
「健康な人にこそ鍼をうちたい」と言った有名な鍼灸師の先達がいた。
師匠片桐先生は「養生の鍼を打つ」とういふうに言われていた。
定期的な針治療は気血の流れをスムーズに整えて、自己免疫力・自然治癒力を高め病気になりにくい身体をつくる。一年、二年と続けていると、いつの間にかいろいろな症状が無くなって、病気知らずの身体になっている。これが鍼治療の理想だ。
私は治療院に来る50代以上の患者さんにこういう言い方をしている。
「まあ、成人病の予防注射だと思って、月に1・2回程度は治療を受けてください」
下手なたとえで誤解されては困るのだが、鍼は注射と違い痛くはない。