もうひとつの履歴書7「淺川要先生のこと」
淺川要先生は鍼灸の世界では広くその名を知られた方だ。日本における中医学研究の第一人者であり、同時にすぐれた臨床家でもある。現在は、私の母校である東京医療福祉専門学校で教鞭をとるかたわら、千代田区で東京中医鍼灸センターを主宰しておられる。
先生には鍼灸学校での3年間、そして卒業後の淺川ゼミでの2年間、中医学の基礎を教えていただいた。中医学会の重鎮であるにもかかわらず、物静かで、たいへん控えめなお人柄である。また、たいへん気さくな方でもある。
私の母校東京医療福祉専門学校の特長のひとつは、一般の鍼灸学校と異なり三種類の鍼が学べるということだった。
西洋医学の解剖学にのっとった現代鍼灸、日本独自の伝統による経絡治療、それに、中医鍼灸が加わる。もちろん、中医鍼灸のカリキュラムには、浅川先生の存在が大きい。
私の通う夜学のクラスの生徒は20代から50代まで年齢もまちまちだったが、
中医学はどちらかというと若者たちには理屈っぽくて難しいと評判が悪かった。
反対に、おじさん、おばさんたちには、アカデミックだと人気があった。
卒業後、私を含め3名が淺川ゼミ7期生として臨床訓練を受けることになる。
ゼミは浅川先生を中心に西洋医1名を含む10名の研究生で構成される。
毎週土曜が開催日で、1年目は中医理論と鍼の刺し方の実習を。2年目は二人一組になってローテーションを組みながら患者さんを受け持ち、臨床治療をおこなった。
実践的な鍼灸師の育成がテーマとされた。鍼灸学校の大学院といったところであろうか。
ゼミで私たち研修生が担当したある女性の患者さんは、一年後に見違えるほど健康的になった。体質改善という分野でも鍼のすばらしさを実感する貴重な体験をさせてもらった。
現在の私の治療は、前の項で述べたように全体に片桐先生の影響を大きく受けているが、問診や脈診、舌診など、診断においては中医学の手法をも合わせて用いている。
とは言うものの、淺川ゼミ会員としては少なからず異端であり、先生にとっては不肖の弟子なのではないかと気が引けることもある。それにもかかわらず開業にあたっては早速にお祝いのメールをいただき、ホームページをリンクしましょうとありがたいお声をかけていただいた。
淺川ゼミの7期生の仲間でも鈴木先生、矢野先生が浦安にそれぞれ治療院を開いていらっしゃる。鈴木先生には、先日、私の治療院に尋ねて来ていただいた。お互い連絡を取り合いながら切磋琢磨していきたいと思っている。
浅川先生とは日本中医学会の集まりや、ゼミの勉強会、症例発表会など、毎年何回かお会いする機会がある。ゼミも今年でたしか11期生をむかえたはずだ。
懇親会などの席では、近年、少しお酒もひかえ気味のようにお見受けするが、いつまでもお元気でいてほしいと願っている。